「世界でもっとも高価な香り」 世界で二番目 パルファム V1
1998年/173個限定品 調香師 Arthur Burnham(アーサー・バーンハム)
公開されたトム・ティクヴァの映画「パフューム ある人殺しの物語」ですが、「世界がひれ伏す香り」なら、こちらは「世界でもっとも高価な香り」の香水です。現在、世界で二番目に高価な「パルファム V1」は、ハンドメイドのウッドクラフトボックスケースに収まり、ルビーとダイアモンドのゴールドキーで、その至高の香水の箱を開けるのです。古代エジプトあたりの歴史のある香料にこだわって、薔薇と樹脂の香料のみでつくられたといいます。
お値段は難病などで苦しむ人の治療費をささえる値に等しいもの。970万円という価格。
「パフューム ある人殺しの物語」の主人公グルヌイユは、「世界がひれ伏す香り」をつくりあげた天才調香師。彼の破滅的でむごい生涯を暗示させる生まれと汚穢の時代。
パフューム ある人殺しの物語
Perfume: The Story of a Murderer Patrick Sueskind
La fleur eternelle 記事より引用
(略)
私たちが知らない「嫌な匂い」。私たちが感じる「体臭」とは違うということと、暮らしの悪臭があるということ。
究極な相反する「匂い」が、当時の人々の持つ「悪臭」と、香水の「芳香」です。その0地点にあるのが、グルヌイユの「無臭」。
「当たり前の悪臭」と、「至福の香り」と、「絶たれた匂い」の物語。
(C)2006 Constantin Film Produktion GmbH / VIP Medienfonds 4 GmbH & Co. KG / NEF Productions S.A. / Castelao Productions S.A.
花火が打ち上げられたその日、グルヌイユは、至福の香りを漂わせる赤毛の少女に夢中になり、あげくに殺してしまうのです。死とともに香りが消えることを知ったグルヌイユ。
調合師バルディーニの見習いになり、蒸留技術を身につけ、グルヌイユの香水はパリ中を陶然とさせます。
マリー・アントワネットが好んだ花や根や木の露の植物性、ポンバドゥール夫人が好んだ麝香のように密かな汚穢の動物性の香り。
あの運命の香りを永遠にとどめておくために、グルヌイユは調合師となったのです。そして、猟奇的な方法で求める運命の香。
グルヌイユの舞台となった18世紀フランスは、ナポレオンの香水の調香師で有名なヨアン=マリナ・ファリナ、そしてマリー・アントワネットの調香師ジャン=ルイ・ファルジョンがいます。
100枚の花びらの薔薇 そして王妃の香り マリー・アントワネット 2006年11月1日付
資生堂「ローズロワイヤル」、マリー・アントワネットの香水「王妃の香り」、「M.A. Sillage de la Reine」、書籍「香りの宮殿:マリー・アントワネットの香師の秘史」、「マリー=アントワネットの調香師、ジャン=ルイ・ファルジョン」、マリー・アントワネットの香水瓶ほかマリー・アントワネット関連記事
映画 マリー・アントワネット
ワイン「マリー・アントワネット」
ルドゥーテのロサ・センティフォリア 画家 P-J Redoute
マリー・アントワネットが愛したもの アントワネット肖像画
香水 バラ ヴェルサイユ
香水 ジャン デプレ バラ ヴェルサイユ
薔薇 ロサ・センティフォリア
アントワネットのショコラ ドゥボーブ・エ・ガレ
マリー・アントワネットの香水
そうしてグルヌイユは、死とともに消えてしまった「運命の香り」に、もう一度めぐり合うのです。
「禁断の香り」の調合師グルヌイユ。グルヌイユの調合のために、死んでいく人、人、人。クライマックスは香りに陶酔された裸の人々。人が求める臭い、匂い、香りは、「汚穢」と「至福」の芳香なのです。
(C)2006 Constantin Film Produktion GmbH
映画「パフューム ある人殺しの物語」は、La fleur eternelle で紹介されていた書籍、パトリック・ジュースキント著作の「香水 ある人殺しの物語」の表紙からはじまります。
La fleur eternelle の記事文中で紹介した、ジャン=アントン・ヴァトー(ジャン・アントワーヌ・ワトー )の「ユピテルとアンティオペ(ジュピターとアンティオーペ)」のディティールです。
この作品は、ルーブル美術館所蔵では「ニンフとサテュロス」となっていますが、日本では「ユピテルとアンティオペ」というタイトルでも紹介されています。
1715年〜16年に完成されたヴァトー(ワトー )の神話画で、この神話が、「パフューム ある人殺しの物語」のプロローグではないでしょうか。(残念ながら、邦訳の「香水」は、表紙が変わったようです。)
Jean-Antoine Watteau 「Nymphe et Satyre」 1715‐16 MUSEE DU LOUVRE
ユピテル(ジュピター)はご存知のように、ギリシア神話のゼウスと同一視されています。
古代テーバイ王ニクテウスの娘、王女アンティオペ。ユピテル(ジュピター)が眠りについたアンティオペを、サテュロス族の姿となって、犯し身ごもらせます。
ユピテル(ジュピター)が変身した自然の精霊 半人半獣のサテュロス族は、森の精霊フォーンやギリシアの牧羊神パンと同一視されています。
サテュロスたちは、破壊的で危険で、臆病者。ワインと快楽におぼれる、怠惰で無用の種族です。民話では、人間にとって「悪魔的」な存在でした。彼ら種族に、生贄を捧げる儀式があったのです。(参考サイト:Wikipedia)
神話のなかのサテュロス族のような破壊的で危険なグルヌイユ。彼への生贄の物語がはじまるのです。そして、その破壊的で危険なものとは、グルヌイユの性質だけではなく、パトリック・ジュースキントは、なにか社会に警告をしているようです。
パフューム
原作者のパトリック・ジュースキントは、ドイツの作家。国民からも恐れられた、1947年に創設の旧東ドイツ シュタージ組織(Stasi)は、「個人の匂い(体臭)」を保管していました。徹底した監視国家の象徴です。
(略)
「パフューム ある人殺しの物語」は、特異な天才調香師の物語に、恐ろしいほど個人を特定する匂いの危険と、人を夢中にさせる魅惑的な芳しい匂いと、そして私達に、まだ何か問いかけている気がします。